ー ききょう!!!ー
「きみこ!いい加減に家の中に入りなさい。そのうちに帰ってくるかもしれないし、お隣さんにもご迷惑よ。それにあなたが風邪を引いてしまうわ。明日から、即、出社でしょ。大丈夫、今夜はさほど冷え込まないそうよ...」
私は母に呼ばれて、肩を落として家に入りました。
翌日は、出社初日でした。わたしは母にききょうを探してくれるように頼み、仕事に出かけました。帰宅すると、母は言いました。
「町の広報無線で、迷い猫のお知らせをしてもらうよう頼んだから...」
迷い犬はお知らせ聞いたことあるけど猫はね...
「取りあえず、首輪してるし、人懐っこいし、きっと見つかるわよ!」
- すみれは?... -
「子犬の散歩紐をつけて門を歩かせたわよ.. 」
- ありがと.. -
母は、私の落胆ぶりに酷く心を痛めていました。
私は、それから幾日も朝晩とききょうの名を呼んで近所を徘徊し、町の広報無線での幾度かお知らせを頼みましたが、ききょうの手がかりは見つかりませんでした。そうして、(今、考えればそんなことありえないと分かるののですが..、)私は、ききょうは名古屋へ帰ったのかもしれないと考えるようになりました。それは、ききょうに私が呼ぶ声が聞こえているのなら私の元へ帰ってこないわけがないと確信していたからでした。名古屋の部屋の隣人にまで電話を入れてお願いしました。
- もしも、もしも、ききょうを近くで見かけたら保護してほしいと...
私は当時の日々をどのように過ごしたのかあまり記憶が残っていません。勿論、もう既に十数年経っていますし、その後、ホテルのグランドオープンに向けて怒涛のように多忙な日々を過ごしたせいもあるでしょう。でも、ききょうが余りにも突然にいなくなったショックは私の記憶をもあいまいな霧の中へ持ち去ってしまったのでした。