熱いものは熱く

早、彼岸のころ、随分と暖かくなった。

日本料理は刻々と移ろいゆく食材の旨みを細やかに愛おしく集め美しい更紗に織り上げていくようなものだと私は思っている。

春の潮汁は、鯛、たけのこ、わかめなどを椀に織り合わせる。何気ない一品こそ丁寧さが必要だ。たけのこは米ぬかと鷹のつめをいれ茹でてあく抜きをする。ほかの食材もそれぞれに下ごしらえをする。鯛はさばいて軽く塩を振る。かつお節で出汁をとっておく。

 


前菜をお出しすると直ぐ鯛の切り身を直火にあぶる。潮汁の具材を椀に盛り合わせる。一番出汁を火にかけ味を調える。鯛に火がとおり皮に焼き目をつけたら椀に盛り汁をはる。

さあ、熱々をお出ししよう!椀の蓋をとると、ほわっと立ち上る湯気と木の芽の香りが食欲をそそる。

山菜のてんぷらは、その後のお客さまの箸の進み具合に合わせて支度を始める。食材に小麦粉を薄く振り、氷水で溶いた衣にくぐらせてやや低めの温度の油でカラッと揚げる。やっぱり揚げたての熱々をパリパリッサクサクッと召し上がっていただこう。春の香りと苦味は、解毒効果が期待できる。自然の摂理はすばらしい!

 

あらかじめ、出汁の味を作っておけば楽だ。でも、温め直しでは味が鈍る。だからそれを避ける為にその場で直前に整える。揚げ物もその場で衣を溶く。「最も美味しく召し上がっていただきたい」とのこだわりは、時にタイミングが難しい。私のわがままなのかもしれない。まだ、精進が足りないと思う日々なのだ。