「若」はすっかり大きくなって、ボスと見分けがつかないほどになっていきました。若は、ボスより少し目元が優しい感じ、昼中は何処へ行くのやら、餌の時間には戻って来て「たぬき」といつもすりすりゴロゴロしていました。
穏やかな春が過ぎてゆこうとしていました。
「たぬき」は、どこへも行かず幾分大胆になってお店の玄関の直ぐ脇でごろりとお昼寝をしていることが多くなりました。そして、お客さまに「あら、かわいい猫ちゃんね。」と声をかけられると、よぼよぼと裏へ逃げていきました。
たぬきは、だんだんと食が細くなっていきました。パウチ入りの柔らかタイプを食べさせるようになりました。初めは喜んで少しずつ食べましたが、だんだんとそれさえも食べれなくなっていきました。そして真ん中の植え込みの中で一日中寝ていることが多くなりました。餌もお水も運んでやりました。
主人がぼそりとつぶやきました。「夏は越せないかもしれない..」
元々、年老いていたのですもの、店へ現れた頃のガリガリでよれよれみのすぼらしい姿を思い出していました。毎日、植え込みを覗き込んで「たぬき」と名前を呼んで餌とお水を運びました。
急に暑くなった日の朝、とうとう姿がなくなりました。